真夏警察6

その日は風の強い日だった。男は、駅から工場まで、徒歩20分、しかも川の土手沿いの道を通るので、ジリジリと太陽の照りつける中、砂ぼこりまみれで歩いていた。

工場の受付で、手続きすると、制服を来た警備員2名とスーツ男が迎えに来て、工場の中へと案内された。

10個くらいの扉と、長い廊下を何度も曲がったせいで、男はもう一人では入り口にたどり着く自信はない。

スーツ男が最後の扉を、暗証番号と指紋認証で開けると、私はここで失礼しますと言って、中に入るよう促した。中に入ると背中で重い扉がガツンと音を立てて閉まった。

中は薄暗く、目が慣れるまで何も見えなかった。遠くに薄明かりのある辺りから、こっちこっちと声が聞こえて、恐る恐る声の方向に歩いて行くと、一台のパソコンの前に太ったおじさんが座っていた。

こいつが、あの有名な天才物理学者か。
横に置かれた椅子に腰掛けながら、汗だくの太ったおじさんをまじまじと見ていると、か細い声で
ご苦労様、
もうあまり時間がありません。

案内しますというと先に立って歩き出した。部屋の隅に車が置いてあり、助手席に乗る。
太ったおじさんは、じゃあ行きますねと言うと、ダイヤルを1800年アメリカ、サンフランシスコに合わせて、赤いボタンを押した。

車はどんどん光の森を抜けて行く。
男は太ったおじさんを見ていたが、数秒で意識をなくしてしまった。


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